()内は可変
お問い合わせはこちらから

TOKYOヤマノテBOYSがVITAに移植されるそうなので、大真面目に書く

本来、このタイミングであれば、「MATSU-LIVE」の感想であるとか*1、ミニアルバム『NAKED MAN』の感想*2であるとかを書くところなのですが、それよりも何よりも、Rejet作品『TOKYOヤマノテBOYS』の完全VITA移植が発表されたのだ、ということについて早々とコメントしたいところです。

tybweb.net


『TOKYOヤマノテBOYS』(以下『TYB』)は、岩崎大介氏が代表取締役を務める、女性向けコンテンツメーカー「Rejet」が制作した、女性向け恋愛ゲーム(通称・乙女ゲーム*3)。当初はPC向けの作品で、2011年4月から本編3本、のちにオールスターディスク1本、ファンディスク3本を発売。のちにPSPに本編3本のみが移植されていました。


株式会社ウッドリンク主催の大会「TYB」は、都内の男子高校生No.1を決めるため、一週間を費やして行われるラブ・ロワイヤル。この「TYB」を舞台に、選ばれた男子高校生がたった1人のプリンセスを口説き合い、その魅力を競う……という筋書で、山手線の山の手地域の*4駅の特徴と紐づいた、個性豊かな9人が登場します。

のちのRejetの「行くと決めたら個性は振り切る」というキャラ造形の基礎が詰まっているという点で、Rejetヒストリーの中でも欠かすことのできない作品です。

……というような基本的な事情はもちろん重要な事柄ですが、私がここで特別に触れたいのは、『TYB』が持っている構造が極めて自覚的に乙女ゲームの俯瞰をすべく仕立てられている、という点です。


 以下、作中の台詞を一部引用します。が、ストーリーの本筋や展開に関わる台詞ではないので、ネタバレ度は低めとなっていますが、どうしても見たくない!という方はここまでとしてください。






作中の大会「TYB」に参加する男子高校生たちは、プレイヤーにとってはそのまま攻略対象となります。ただし、作品開始時の彼らは「大会によって女性へのアプローチを外部から強制されている状態」であり、実際にプリンセス、すなわち主人公に恋心を抱いているとは限りません。
この「大会による恋愛的アプローチの強制」はそのまま、〈ゲーム制作者によってプレイヤーとの恋愛を宿命づけられている〉キャラクターの状態とシンクロしています。

このように、作中世界の大会「TYB」で起きている出来事の多くは、現実世界の『TYB』=乙女ゲームによって引き起こされる事象のメタファーになっているのです。「TYB」は『TYB』の拡大模型さながら、その形を模倣しています。(当パラグラフ、17:00追記)


作中世界では「TYB」はテレビで放映されており、特に女子たちに大きな人気があります。プリンセスをうらやむ人もいれば、エントリーした男子高校生のアプローチを見比べては、自分の好みは誰だ、あなたはどうなのと盛り上がる人々も多くいます。
一方で、「TYB」によって不平不満を募らせている男性もおり、その一部は暴徒化に至っています。彼ら暴徒の理屈は作中、ある攻略対象によって総括されています。曰く、「女性の視線が大会に集まるということは、世の一般男性から女性の興味が離れていくことを意味する」と。

もちろん、この主張の前半を現実世界に置換すれば、〈女性の趣味嗜好が乙女ゲーム・2次元作品に集まるということ〉になることはもはや自明と言えましょう。

しかも、このロジックには反論も合わせて用意されています。
別の攻略対象による「この大会を見て勇気を持つ人もいるはず」というフォローや、プリンセスによる「みんなで見ている夢から楽しい感情が広がって……今、街中に充満している怒りを消し去ることができたらって……そう、思うんです」などの反応がそれで、このように、『TYB』は随所で「乙女ゲームで何が起こるか、何を起こすか」を自問自答し続けている作品なのです。


また、作中では、大会「TYB」の主催・株式会社ウッドリンクの社長として プレジデント を名乗る人物が要所で顔を出しています。この プレジデントは二重の意味でメタなポジションに位置しており、大会企画者でありながら、現実世界の〈ゲーム制作者〉にも似た意味を帯びたキャラクターです。*5

プレジデントが「TYB」を時に「物語」に喩えるのもその表れです*6。また、プレジデントが「夢が現実の災厄に負けてしまっては、誰も夢を見てくれなくなる」と言い、これを受けた攻略対象が「プリンセスを自分と置き換えて夢心地に浸る女性たちのためにも~(中略)~幻想的な夢物語を演じ続けろと?」と応じるシーンは、〈ゲーム制作者〉VS〈ゲーム内キャラクター〉の論戦として、ひとつのクライマックスです。

また、この作品の1本目のリリースが、東日本大震災の直後の2011年4月末であることも加味して考えると、(収録時期的にはあくまで結果的にでしょうが)凄まじい決意を秘めた一幕でもあるのかもしれません。
作中でプリンセスは「現実に暗い事件が多いからこそ、みんなTYBに夢を求めてる。わたしを見て、楽しんだり、勇気づけられている人がいるんだから、こんなことでやめられないよ」という言葉すら口にしています。〈ゲームキャラクター〉の発言として、あまりに献身的じゃありませんか!


以上のように、女性向けのエンターテインメント、女性向けのコンテンツを制作するRejetの思想の"におい"を感じ取れる作品として、『TOKYOヤマノテBOYS』は私の中で無二の作品として君臨しています。

この『TYB』がついにVITAで、しかも全作品がVITAソフト2本にまとめられると知り、ただただ喜びつつ、折に触れ「『TYB』の移植を待っています」とRejetさんに実際に伝えてきた甲斐が実ったことをも幸福に思っております。



あ、妙に真面目に書いてしまいましたが、個性が変なふうにとんがった男子高校生ズ(作中では「ヤマノテBOYS」)と、ツッコミがさえわたるプリンセスとの会話はコメディタッチなものが多く、気楽に笑いながらプレイできます。もちろんシリアスもしっかりこなせる、タフなキャラクターたちがそろっています。

未プレイの方はぜひ注目してください。
いやあー、楽しみです! 私も発売を心待ちにしています。

*1:編集に偏愛があって、手触りがゴリゴリしていたのがとてもとても好きです

*2:MVのフルバージョンで、「見られる」「見る(=目が合う)」をこれ以上ないくらいに焦らしながら明確にしてきたあたりで、ちゃんとしてる……と思っています

*3:あるいは「乙女ゲー」

*4:2017/01/29 11:58修正。六本木代表がいました。Twitterでご指摘をいただき、たいへんありがたく思っております。

*5:とはいえ、Rejet代表・岩崎大介氏と同値に語るのはリスキーだと思います。むしろ、「Rejet」そのものを背負ったキャラクターだと私は考えています。

*6:この比喩は他の攻略対象も用いており、この比喩によって彼らは〈ゲーム内キャラクター〉としての暗黙の自覚のもとに〈私〉に訴えかけるのです。