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AD-LIVEがSCRAPと組んで「脱出」ですってよ、あるいは再演不可能性とその結末の話

ad-live-project.com

はい。

正直、驚き半分、納得半分、というところです。いや、驚き4割…… そうでもないかな…… いえ、やっぱり半分ですかねえ。

6/27の出演者発表会において、AD-LIVE2020は、リアル脱出ゲームで知られる株式会社SCRAPとのコラボレーションであることが発表されました。

出演者のほうも若手が一気に入ってきつつ、ベテランからもニューフェイス参戦というサービスあふれるバランスでほくほくしておりますが、私にとっての第一トピックはやはりSCRAPコラボのほうです。SCRAPさんとは個人的に浅からぬ因縁がありまして、たとえば2016年5月のとある記事で「5月13日から15日までの3日間、声を張り上げ続け」と書いたんですが、これ、SCRAP絡みですから…… SCRAPのアレでコレがこうでしたから(守秘義務に触れるので書けない)。

自分自身でも何度も触れている「リアル脱出ゲーム」なので、より想像が強く刺激されてしまっているのかもしれません。以降は、「リアル脱出ゲーム」とは何か? どういう特徴があるのか? を概観しつつ、AD-LIVEとのコラボの可能性をちょっと書いてみようと思います。

リアル脱出ゲームとは?

「リアル脱出ゲーム」とは、株式会社SCRAPが実施する、謎解きを行ってシチュエーションの突破を目指す、実体験型アトラクションです。そのアイデアの発端は「CRIMSON ROOM*1というWebコンテンツ、および、その後に起こった「なぜか部屋に閉じ込められている、という状況から、アイテムを探し、謎を解き、部屋を出る」という形式のパズルゲームの流行にあったと言えるでしょう。

Webブラウザによる脱出ゲームの流行の中で、「これを現実でやってみたい!」という欲はおそらくいろんなところにあったのでしょうが、それを実際に成し遂げたのは、現在のSCRAP代表の加藤隆生氏だったわけですね。もともとは氏が関わる京都のフリーペーパー『SCRAP』の一企画に過ぎなかった「リアル脱出ゲーム」は、みるみるうちに超巨大コンテンツに成長を遂げたのです。このあたりのことは、SCRAP出版『10th Anniversary リアル脱出ゲームのすべて』に詳しいです。

いま現在、SCRAPの制作する「リアル脱出ゲーム」の公演は、その特徴によっていくつかの分類が生まれています。小規模な順に、ルーム型・ホール型・スタジアム型・周遊型*2と呼ぶことが可能です。AD-LIVEとのコラボを考える上でも重要なので、ざっと特徴をあげておきましょう。

ルーム型

主に「アジトオブスクラップ」系列で実施されるので、アジト型とも。参加人数は10人程度まで。実際に部屋に1チームが閉じ込められ、制限時間(多くは60分)以内の脱出を目指す。脱出のために室内を激しく探索しなければならないことが最大の特徴。カーペットをめくり、テーブルの裏をのぞき、引き出しをすべて引っ張り出してひっくり返し、高い棚の上まで手を伸ばしてまさぐり、壁の隅を見るたびに這いつくばり、と、謎解きに必要なブツを探し出す段取りもなかなか大変。

ホール型

主に「ヒミツキチオブスクラップ」系列で実施されるので、ヒミツキチ型とも。1チームは6人程度で、複数のチームが同時に謎解きに参加できるため、同時参加可能人数は100人程度。チームメンバーで協力し、制限時間(多くは60分)以内の脱出を目指す。テーブルに集まって謎を解き、ホール内の壁に散らばるヒントを回収し、と同時並行で取り掛かれる作業が多めで、チームメンバー間での分担がカギになることが多い。また、謎解きの段階が進むことで、ホール内のとある一画に(例えばアイテムを見せたり、合言葉を伝えたりして)入ることができるようになったりと、ちょっとしたアドベンチャー要素もある。

スタジアム型

会場によってはドーム型とも。参加人数は1000人以上、過去に10000人規模の公演の例もあり。単独参加可能で、希望者はチームを組んでもよい。制限時間は、90分程度で決められている場合と、その日の開催時間の間中ずっと、という場合がある。参加者は謎解きに必要なキットを渡され、キットに従い、必要に応じて会場内を移動しながら謎解きを行う。同時に参加可能な人数が多く、会場内での移動にも多少の時間がかかる点が特徴。過去に実績のある会場としては、東京ドーム、メットライフドームよみうりランドなど。

周遊型

街歩き型とも。参加人数は制限なし。単独参加可能。制限時間はなし。ただし、時間帯によっては入場不能、通行不能の個所が存在する場合がある。エリア全体が謎解きのフィールドとなっており、謎を解いて新たな目的地を知り、そこを訪ねてヒントを得る、という流れを繰り返して最終的なゴールにたどり着く形が多い。移動時間を含めると所要時間が非常に長いため、すべてを解くのには半日以上の時間がかかる場合が多い。例としては、東京メトロとのコラボで行われる「地下謎への招待状」シリーズなど。

上記の4分類はあくまで基本的なもので、実際の各公演においては、ゆるやかに条件が混在する場合がある(例:スタジアム型だがチーム制のみで単独参加は不可、など)。また、このすべての形態において、同一公演への再参加は不可。 謎の詳細をSNS等で公開することも、まだ参加していないプレイヤーへのネタバレ行為となるため、禁止されている。

AD-LIVEとコラボするなら……

とまあ、ざくざくっと書いてみました。

以上の特徴より、AD-LIVE本公演で行うならば、ホール寄りのルーム型が本命でしょう。舞台上のあちこちからヒントを探すなんて面白そうですし、謎を解く側、ヒントを探す側と分担がききそうなところもよい。観客席からの視認性から見れば、細かい紙きれを切ったり貼ったりするような細々した作業はあまり見栄えがしないでしょう。プロジェクタなどでビジュアルが提示されればじゅうぶん取り組める謎が中心になりそうです。

と、こんな感じで、謎解きのかたちも気になるところですが、SCRAP公演が持っている「再参加不可」「ネタバレ禁止」条項も私的に見逃せません。SCRAPにとってこの取り決めは非常に重要。

ひとつには、全体の難易度を「初見の状態で解く」に合わせて調節しているため、仮に再プレイを行えば著しく全体の難易度が下落するという事情があります。答えが分かっている状態の謎解きは謎解きではありませんよね。もうひとつには、「一度しか参加できないからこそ、脱出成功に向けて本気になる!」という、参加者側のモチベーションにかかわる部分です。SCRAP公演の多くはチーム制で、必ずしも友人・知人とだけ組むわけではありません。したがって、やる気のない参加者は極めて迷惑な存在です。各参加者にとってたった一度の公演をただひとりが台無しにしてしまうわけですから。

そう、この「各参加者にとってたった一度の公演」というところが、AD-LIVEとSCRAPのリアル脱出ゲームの最大の共通点だと思うんですよ。

SCRAPのリアル脱出ゲーム公演(ルームやホール)に参加すると、その60分の間はとにかくずーっとスイッチオンで、考えるし、動くし、悩むしで、忙しいのなんの。自力で謎が解ければ達成感はすっごいし、隣にいる人が目覚ましい閃きで謎を一刀両断すると思わず拍手するほどです。制限時間内に脱出が叶ったときなんか、かなりテンションが上がります(余談ですが、SCRAPのリアル脱出ゲームの脱出成功率は50%を下回る場合が多いです)。気持ちよく家に帰れるってもんです。リアル脱出ゲームの「結果」には脱出成功/脱出失敗の2種類しかありません*3が、その楽しさは結果だけでは語れません。

一方、AD-LIVEにおいては、「どう終わるか」という点が常に模索されていました。AD-LIVE 2015ではオチの型をしっかり決め、AD-LIVE 2016では最後の場面背景を決めておき、AD-LIVE 2017では〈結末の行動〉が事前に演出部から指示され、AD-LIVE 2018ではキャストが終わりの行動を事前に演出部に申告し、AD-LIVE ZEROではくじ引きで最後の行動を決定してきました。そして、これらはすべて、大なり小なり「結末の〈型〉を変更できない」という特徴を持っていたともいえると思います。

特に顕著だったのはAD-LIVE 2015です。AD-LIVE2015において、最後の場面の見かけ上の形は完全に同一で、そこにたどり着くのは既定路線でした。つまり、裏を返せば、キャストはある意味では結末の形を自分の支配下に置き続けなければならなかったわけですよ。結末の形を手放せないし、変更できないので。

一方、今年のAD-LIVE 2020では、キャストが結末の〈型〉を完全に支配することができません。脱出の成否は謎が解けるかどうかにかかっているので、どんなに頑張ってもダメなときはダメ。特に脱出成功を目指したい場合はそうなります。あえて積極的に脱出失敗する方向に突撃することは可能なんでしょうが、そのモチベーション設定自体はキャラクターとしては不自然な要素なので、よっぽど理由付けしないと難しそうです。

再演不可能性と、結末が選べないという特徴。いやあ、ほんと、AD-LIVEが「リアル脱出ゲーム」と組む甲斐がある、と思えてなりませんよ! とても、良い!

そして、この再演不可能性がある以上、16公演すべて違う謎が出てくる可能性はとても高いです。*4特に昼夜は絶対に変えねばなりませんよ、プレイヤーが一緒なんだから。まったく同じ謎を再利用してきたらちょっと、SCRAPさんそりゃないぜ、って感じになりますからね。頼みますぜ。


私はSCRAPのコンテンツにもそこそこ触れているし、謎解きにも慣れているので、本公演中に(すぐに答えが分かってしまって)ソワソワしてしまう可能性はわりとあるなあ、と思っています。実際のSCRAPの公演では、本当に謎解きにつまるとスタッフさんがそっとヒントを耳打ちしてくれたりもするのですが、果たしてAD-LIVE2020ではそのあたりはどうなんでしょうか。

あと、SCRAPさんは公演のたびにオマケ謎入りの記念クリアファイルとかをよく売り出してるので、AD-LIVEコラボでもぜひ作っていただきたいですね。いつもみたいに、パンフレットにも謎を載せてくれたら最高です。

実に楽しみです! 期待してます。

*1:高木敏光氏が運営するサイト「TAKAGISM」(現在は閉鎖)で公開されていました。プレイしたい場合は移植されている CRIMSON ROOM|大人ゲーム王国 for Yahoo! ゲーム かんたんゲーム へどうぞ。

*2:呼び名は便宜上。かなり公式の用語に近いと思いますが。

*3:このあたり、AD-LIVE2015のTF脚本をちょっと思い出したり。

*4:7/6 17:00追記 最初「間違いありません」と書いてたんですけど、さすがに圧が高すぎるかなあと思って表現を調整しました。昼夜で変更するのは揺るぎないにしても、8種類×2回ぐらいの可能性はあるかもしれませんし。