()内は可変
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乙女ゲームの「良い」とはなんぞやという徒然書き

ちょっと気乗りしたので、構成も練らずに書き始めてみますね。

最近はとある事情から『遥かなる時空の中で6』を駆け抜けておりまして、「大したもんだ」としみじみとなる場面をいくつも見かけ、そのたびに手を止めてはとっぷりと堪能する、というようなことをしています。

こと乙女ゲームに関する限り、自分の中での「良い」という感覚はほとんどの場合極めて明瞭で、これは良い、特にここがだな、と、かなりピンポイントで指定可能です。不思議なことですが、「良い」というエッジ-輪郭-のようなもの、あるいは想起される感情の起伏の屈折点、自分のうちに発生させられる*1想いの発火剤を絞り込んで示すことができます。

攻略途中の現時点では、という但し書きは絶対に必要なものの、特に見事すぎるほど見事だったのが萩尾九段であり、エピソードの佇まい、人物像の描き出し方においては頭一つ抜けているのではないか*2、というのが現時点でのもっぱらの感想です。特に、以下ネタバレにつき反転軍邸においてドレス姿に着替えた高塚梓を目撃したとたんに動悸を訴え、村雨を引き合いに出してまで自らの言葉の至らなさ(ただしそれが率直さそのもの)を吐露し、「出直してくる」と1時間中座し(着替えずに1時間待つ梓も梓だ)、以前梓に美しいと褒められた千代紙の花束を携えて駆け戻ってくる】という場面は、九段という人物の人柄、それに対する梓の応じ方、過去のエピソードの再利用が結実しておりまして、出色の出来栄えです。特に、場面内に明示された時間的な余白に対する認識が梓とプレイヤーで完全に一致しており、その余白の間に九段がどのような行動を取っていたのかをありありと想像してしまう、梓も、そして私たちも!というシンクロもまた素晴らしい。

さらに重ねて、周回プレイを前提とする本作において、特に大物語のキーになるイベントに付随するエピソードだというのもまたポイントで、他の攻略対象と捌き方が大きく異なる、という点でも、印象的な場面となっています。個別のエピソードもいいが、共通イベントまわりでの差別化もいいよネ!


もちろん、制作陣の制作上のリソース、あるいは情熱、あるいは誠実さは建前上、そして実際も、攻略対象みなにそれなりに等しく注がれているものでしょうから、ことさらに彼が相対的な意味で情熱的に立ち上げられたわけではないのでしょう。九段を例にあげたものの、他の登場人物たちに見せ場がないかというと全然そんなことはないわけです。なんなら『遥か6』は相当コンセプチュアルな人物「分担」を見事成し遂げていて、割り振りが非常によく仕上げられているような印象さえあります。ていねいな作りだなあ、と思いながら触れてますよ。選択肢のハンドリングも非常に適切ですもんね。感情線として無理がなく、それでいて登場人物のリアクションへの深堀り要請も満たしている、お手本のような選択肢ばかりです。


いやしかしですね、いくつかの乙女ゲームには「キラー」というような登場人物がいてしまうじゃないですか。『ニル・アドミラリの天秤』における尾崎隼人はやはりかなりいろんなものが突っ込まれていますし、『Wand of Fortune II』のアルバロ・ガレイはほとんどびっくり箱状態、というか、彼はシステム的にも特例をもらっているので、「キラー」でないとおかしいとも言えます。

もちろん、設定上、シナリオ上、システム上の「特別」とはまったく別の理路で、ただ出来の良さの一点で「キラー」化してしまう登場人物もいて、かの『薄桜鬼』における斎藤一沖田総司はただただ「キラー」なんだと思いますよね。なんだありゃ。や、あれは「キラー」ですよ、わかるけども!


そう、出来の良さとは、意図して設計された構造だけではなくて、なんらかの「熱」、うまくいっている何か、多くの歯車のかみ合い方にもよるのだと思います。これは私がそう推測しているのですが、ちゃんと見つめるとですね、乙女ゲームにおける「人気投票」というのはかなり正確に順位の予想ができるように思ったりとか。乙女ゲームにおいてはマジであてになると思うんですよ、人気投票。「出来の良さ」という点で。自分の趣味・好みとは一致しなくても、出来の良さの指標としてね。


その点で、今もっとも人気投票の結果が見てみたいのが『真紅の焔 真田忍法帳』です*3。あの作品、人物ごとの力のバランスが何だかおっかしいんで、それがきっと露骨に出ちゃうと思うんだよね。すっごく気になる。誰がどれぐらいぶっ放すのかが。や、何をどうやったって『真紅の焔』が今さら人気投票をやるわけがないのですが、あれですよ、乙女ゲームの「良い」を考える一例として、実に象徴的な一作でした。しばらく大切にすると思います、『真紅の焔』。


なんだか意外なところに着地しましたが、ちょっとした手慰みとしては楽しい文章でした。では、引き続き『遥か6』攻略、粛々と進行したいと思います。

*1:「させられる」であって、「する」ではありません。

*2:もちろん個人的な感想にすぎません。

*3:『CharadeManiacs』はやっていただいたので、たいへんありがとう。大笑いしました。